十五の夏・2
観光に行く前に毎日イタリア語の勉強があった。
朝食の前に一時間、講師の人が来た。
一日目はディーノさんだった。
二日目はツナの親父さん。三日目はオレガノさんが教えてくれた。
俺と笹川はその前にランニングをしていた。
敷地が広いので中を走るだけでも十分だった。
俺は竹刀を持ってこなかったが(長ものの持込はなんであれ非常に難しいらしい)、この城にもなぜか日本刀があった。
模造品だと言ったが重さは結構本格的で、それを借りて素振りはさせてもらった。
笹川はとにかくずっと走っていた。
元気だな。

四日目の朝、イタリア語を習っている部屋に向かおうとするとツナが呼びにきて、今日は勉強はないと言いにきた。
食堂になってる部屋に移動し(とにかく何をするにも移動するので、
城の中を歩き回るだけでも相当の運動になるんじゃないかと思った)、
そこで朝食を食べていると、ディーノさんがやってきた。

「今日は別行動にしよう。ツナと獄寺は俺と一緒に行こうぜ」
「え?」

俺と笹川が顔を見合わせた。ディーノさんが目だけで合図した。

ツナと獄寺は不安そうな顔をして先に車に載せられて出かけた。
俺たちは何も持っていかなくていいと言われて少し待っていた。
オレガノさんが「準備ができました」とだけいい、俺たちを玄関へ連れて行くと、知らない黒塗りの、いかにもな車が待っていた。
固い表情のオレガノさんが俺たちをそこに促し、一緒に乗るかと思ったら外から閉められた。
ただっぴろい後部座席に俺たちはびっくりした。足が組める。なんだこりゃ。
外はまったく見えない。運転席の間にも何かガラスの仕切りがある。
カーテンまで仕切れるようになってるのには驚いた。

「どこ行くんかな」
「……まぁ、また城とかじゃないのかな」
「だな」

俺たちはそういったきり黙りこんだ。笹川兄は寡黙なほうではないと思っていたが、珍しく静かだった。
どのくらい走ったのかわからないが、気がつくと車は止まっていた。
ドアがあけられた。とにかく体が固くなっていたので思わず伸びをした。笹川も同じことをしていた。

誰も案内が出てこない玄関の戸をあけようとすると、中からそれが開いた。重い音。外見は木のようだが、どうやら違うらしい。
中からでてきたのは本物のメイドだった。
俺は正直度肝を抜かれた。
ボンゴレの本部にもメイドはいたのだが、
俺はまさかヴァリアーの本部にまでメイドがいるとは思わなかったのだ、迂闊にも!

先にたって案内された。城の中は本部よりは小ぶりなたたずまいだったが、とにかく重厚だった。
壁も、明かりも、調度品も(たぶん)。持ち主に似てるのな、と俺は思った。



二階の大きな扉の前で俺たちは取り残された。
このあとどうすんの? 開けるの? と俺たちが顔を見合わせていたら、中から声がした。


「う"ぉお"お"い、オマエらいつまでそんなことにつったってる気なんだぁ?」


俺は思わずドアを開けた。
観音開きの戸は開けにくかった。
笹川が反対側もあけてくれてたが、
重くて重くて開けるのにはたいそう骨が折れた。


中は学校の教室くらい大きくてただっぴろい部屋だった。
高い天井にシャンデリア、テーブルにソファセットが目の前にあって、
そこにでんと足を組んで座っている銀の髪と、
隣でソファにもたれている緑の髪が目に入った。
俺たちはずかずかと中に入っていった。
二人が俺たちを見た。

「座れよ」

スクアーロは立ちもしないで俺たちにそういった。
俺たちはそのまま反対側のソファに座った。
緑の髪のルッスーリアが立ち上がって、お茶の準備をし始めた。
すぐに紅茶のいい香りがする。
俺はコーヒーじゃないのな、と思った。
カフェインはあまり飲みたくないのだが、この香りは気持ちよかった。

「久しぶりだな、スクアーロ」
「ふん」



お茶の準備が終わるまでスクアーロは黙ったままだった。




























2008.9.25
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