金と銀と黒のソナタ
ひさしぶりに見たらやっぱり凄かった。

黒と銀の組み合わせは割とよく見かけることがあるのだが(銀のほうとは仕事で一緒になることもあるし、黒と銀の組み合わせはこちらも同じように護衛としているときによく見る組み合わせではあるのだが)そこに金の華やかな男が加わると、まぶしくて目が開けられないほどに感じるのは気のせいだろうか、と山本は思った。
金と黒の二人のボスはそれこそ正反対の外見と表情と出で立ちで、その間にある銀が、二人の間の埋めようのない溝を埋めているようにも見える。
それにしたってとんでもない組み合わせだ、自分がそれほど日本人として見劣るとは思えないが、しかし極東の島国のアジア人と欧州の美術と文化を体現するローマの子供たちを比べるのはそもそも無理というものだ。人前ではけっして靴を脱がないという振る舞いを忘れない男たちの前では、靴と椅子では適うまい。
しかもこの三人、一時期同じ学校で一緒にいたことがあるというのだから恐れ入る。
自分だって十代目とであったときには、獄寺も笹川も雲雀も同じ場所にいたことがあるのだが、しかしこの三人にも自分たちと同じような学生時代があり、しかも同じ学校で勉強したりなんだりをしていたことがあるなどとは、やはりどうしても信じられないのは仕方ない。
話に聞けばそれこそ学校は日本人の乏しい想像力にあるとおりの全寮制で、礼儀作法の時間があるとかいう話を聞いたときにはさすがだなぁ、と素直に感心していたものだったが(その話はこの中の金の王子さまが話してくれたことだ)。いや、すでに彼等は王子ではなく王だった。失念した。
三人でいるときは大抵、ディーノとザンザスが仕事の話を気味が悪いくらいに事務的にしているのをスクアーロがじっと聞いていて、時折出来るとか出来ないとか返事をするだけか、もしくはディーノがスクアーロに、むやみやたらと話かけているかそのどちらだった。
もともとザンザスは非常に口数が少なくて、無駄なことは一切喋らず、必要なことも最低限(かそれ以下)しか口にしない男なのだ。そしてスクアーロは、口を開けば大きな声で、乱暴な口調で投げるようにしか話さないが、それも必要にせまられてのことらしく、それ以外では意外と黙って静かにしていることが多い。そういうときのスクアーロはぞっとするほど美しい。
ディーノに至っては、口を開くと言葉がすべて相手を口説いているんじゃないかと思うような言い回しになるのがこれまた心底不思議だった。
「う゛おぉい、山本、元気かぁ?」
しかしこの三人の中で自分に他意なく声をかけてくれるのは、実はスクアーロだけなのだった。
ザンザスが自分から他人に声をかけるなどということはそもそもありえないし、ディーノは自分から声をかけるよりは他人に先に声をかけられることのほうが多い。(つまり声をかけやすいということになのだ)
そう思うとなんだか不思議な気がする。しかし本当に派手な人選だなぁ、山本はそう思わずにいられない。
なんだか空気がキラキラしてる。知らない間に金粉が混ざってるんじゃないのか? 
「ん、元気だよ。みんな元気そうだなぁ?」
「まぁな。んー…と、二ヶ月ぶりかぁ? 腕は鈍ってねぇかぁ?」
「そんなことないぜ! なんなら試してみる?」
「おめぇとやりあって殺しちまったら十代目に怒られるぜぇ」
「そんなヘマしないって」
「言うじゃねぇか、バンビーノ?」
スクアーロの中ではいまだに自分がジャッポーネのバンビーノのままだったりするのだが、最近はそれを嘆くのは止めにした。子供だって思われているほうが(少なくともスクアーロの中では)やっぱり後々面倒がなくていい。スクアーロの背後で互いを牽制しあってる二人のボスにとっては、自分はとっくに何らかのターゲットに入っているんだろうということは判るのだけれども。
背中から突き刺さるように向けられる黒と金の視線に、なんで気がつかないでいられるんだろう、この目の前の人は。
「今度寿司食いに行こうな、日本でもこっちでもいいぜ」
「そうだなぁ、おまえの探してくる店のマグロはうまいもんなぁ。考えとくぜぇ」
そう言って別れるとスクアーロの隣に、珍しく彼を待っている彼のボスが、ものすごくふてくされた横顔を見せているのが見えた。すぐに手が伸びてきて、長く伸ばした銀の髪を引っつかんで自分のほうに引っ張った。それをディーノが止めている。その三人の距離感の微妙さや、ためらいもなくスクアーロの髪に触れる二人のボスの態度とかに、嫉妬を感じないといえば嘘になる。ザンザスがスクアーロを勝手にするのはもうしょうがないなぁと思えるようにはなってきたのだけれども。
あの二人の間には入れやしない。そしてその三人の近さはわからない。
けれど、自分はあの美しい人の隣に立つことが出来るのだ。真正面から目を見据えて、自分が強くなると本当に嬉しそうに笑ってくれるのは、たぶんこの世で自分だけなんだと思うと、それは誰にも渡せない。
三人が立ち去ったその後も、まだあたりが光輝いているような気がする。
目の裏がちかちかする、なんだってあんなにきらびやかになっているんだろう。
男の花は三十過ぎてからだっていうのは本当だな、と山本は思ったが、しかし自分が彼等と同じ年になったときに、あんなふうになれるんだろうか? と考えれば、その可能性は果てしなく低そうな気がしてきた。

やっぱり欧州の文化と芸術の深みはハンパないのなぁ、と極東の島国の男である山本は、しみじみとそう思った。

2008.10..20
すっごい久々にジャンプ買った記念。三十代凄すぎた。目が潰れる…!この間の話を書くべきかどうか…。

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