こどもの相談室
選べるってことはしあわせだよなぁ? だけどそんなんことよりも、選べたことがいいことなんじゃないかと俺は思うことがあるんだ、最近は。そしてそれを貫けるなら、それはすげぇ幸福じゃないのかな。
「それは一目惚れっていうのよ、普通だったら」
そうなのか? そういうもんだったのか? あれは?
「そうだと思うわよ、他に思いつかないもの。わたしには他に思いつかないなぁ、そういうのって」
そうだったのか、俺全然気がつかなかったぜぇ…。
「そうなの?」
ああ、うん……どうかなぁ、違うかもしれねぇ。わかんなかったのはそんときだけかなぁ、いや、ホントは全然わかってないのか? 俺は。
というか女、その言い方だと俺、あいつに惚れてるってことかぁ?
「そうね、そうじゃないの? その言い方聞いてると、そうとしか思えないけど。それはもう熱烈に、よ」
そうだったのかぁ…全然気がつかなかったぜぇ。
「えええ? どうして?」
いやだって、知らねぇし。
「ええ? どういう意味なの」
俺ホントにあのときあいつにこう、ビビッときたんだけどよぉ…あいつは全然そういうのなかったみてぇだし、いや、そんなのそもそも関係ねぇと俺は思ってるんだけど、俺は別に殴られても蹴られても突っこまれても全然気にならなかったんだけどよぉ…。
「そんなことされてるの」
ああ、それはいいんだ別に。んで、俺はあいつの役にたちたくて仕方なくて、傍にいたくてしかたなくて、あいつと一緒にいられればそれで他になんにもいらなくてさぁ…あいつのために俺が出来ることって剣になって戦うってことだけだからよぉ、そうやって俺を使ってくれたらそれでいいんじゃねぇかと思ってて…だからあいつが俺に何しても、それはそれでいいんだぁ、かまわねぇ――って、それって惚れてるってことなのかぁ?
「……なんだかすんごい告白を聞いた気分だわ、顔が赤くなっちゃう」
そうなのか?
「少なくともわたしには、それって一方的な愛の告白にしか聞こえないけど?」
はぁ、そうなんか――。
「なに驚いた顔してるの。ねぇ、誰もあなたにそういわなかったの?」
あ゛あ゛、確かにそういうこと、俺いわれたことなかったなぁ。よくルッスとベルは俺がその話すっと「あーあ」って顔してたけど、それって違うよなぁ? あいつらあきれてただけじゃなかったのか?
「あらら…それってあきれていたっていうよりも、……」
なんだよ、あんたもそんな顔するのかよ?
「…だって、ねぇ……。……そうねぇ、まさか知らないなんて思わなかったから……ちょっと驚いてるのよ」
なんでだぁ? なんでみんなそういうこと知ってんのかぁ?
「あなた以外はみんな知ってると思うけど…、あなたのボスも、きっとわかってるんじゃないのかしら」
あ、それ前にも言われた。
「そうなのね」
ん? ボスも知ってるのかぁ?
「知ってるんじゃないの? あなたのいつも言ってるあの人でしょう」
んあ、そうだぁ。そういやボスは、俺があいつの剣になってやるって言ったときも、えれえ驚いて目ぇひん剥いてたけど、あれって知ってたってことなのかぁ?
「さぁ、どうかしら。わたしアナタのボスのこと、知らないもの。あなたの話でしか」
そっかぁ、そうだよなぁ…。
「でも」
ん?
「それだけ好きだっていつも言われてて、フツーの人ならほだされちゃうと思うけどねぇ」
フツーねぇ。俺のボスさん、フツーじゃねぇからなぁ。あいつも俺と同じ、…いや、もっとこう、すんごい勢いでねじくれているからよ、そういうの、もしかしたらわからんねぇかもなぁ…って思ってるんだけどよ。
「そうなの?」
そういうの、全然知らねぇと思うんだ、多分。うちのボスさん、すんごい疑りぶけぇのな。それこそとことんまで疑って疑って確かめないと信じられない、みたいなんだよなぁ。
「それは大変ね」
あいつ、そもそもオヤジがとんでもねぇうそつきだしよ、お袋はキチガイだし…そんでよくあんなに真面目に仕事するよなぁ。いつ殺されるかわからねぇ生活してんのに。あいつ、俺に会うまでに三回くらい毒殺されかかってるし、狙撃されたんだって片手じゃおさまらないし、誘拐まで含めたらとんでもねぇ回数されそうになったらしいぜ。
「そんなに! よく無事に生きてたわね。お父様がよほど気をつけたのかしら」
それもあるだろうけど、半分以上はあいつの才覚っつうか…超直感のせいで助かったらしーぜぇ。そこらへん、よくわかんねぇけど。
「あら、だったらきっと、そういうのわかるんだとしたら、知ってるんじゃない? あなたの気持ちだって」
そうかなぁ…わかってんのかな?
「わかってないなら近くに置かれることも無いと思うけど、……そんなに勘が鋭いのに、あなたの気持ちを知らないなんて、そんなことないと思うわ、普通は」
そうなんかな…? 俺の気持ちってそういうもん? それってジャマじゃねぇ?
「普通はそうは思わないんじゃない? 親御さんと仲が悪いんだとしたら、あなたの気持ちはとってもあの人にとって役にたってるっていうか、…力になってるんじゃないかと思うわ。そういうこと出来る人なんでしょう?」
どうなのかなぁ。俺そういうのわからねぇし、…恋とか愛とか、持ってたら弱くなると思ってた。
「最後の最後に、力になるのは自分じゃないとあたしは思うわ。誰かの顔が力をくれることもあるし、…そっちのほうが、自分を信じるよりも力になることがあるものなのよ」
そんなもんなのかなぁ? やっぱりよくわからねぇよ、俺
「まだイタリアに帰るのに時間はあるんでしょ。よく考えたら、スッくん」
スッくんていうなぁ!


2009.0910(書いたのは2008.10..5くらい)
公開したつもりでいましたが出てなかったみたいです。もう一年くらい前?
かなりはじめのうちに思いついたもの。
「まだ見ぬ世界の処し方を」の番外編かな、これ。
この間の話を書くべきかどうか…。

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