Killing me softly
膝を絞られるのは初めてだった。

いつだって主は足を開かせたがるし、膝が少しでも内側に向けて力を増せば、それがわずかなものであっても眉間に皺がよって、不機嫌をちらり、と肌にのぼらせることがある。
足の間にある蜜の零れる源と、蜜を呑みこむ空洞を、ともに自分の手の中で、自在に支配できないと気がすまないのだ。
なのに、今日は、それとまったく逆のことを望まれている…ということが、スクアーロを混乱させてしまっている。
細い膝を、男の指先が掴んで、開かれていた隙間を小さく絞ってくる。
そしてそこに、鮮やかでケミカルな色合いの紐がくぐってくるのを、スクアーロは悪夢でも見るような気分で眺めていた。
本当ならすぐに、いやだやめろそんなことするなと、大声で悲鳴をあげてしまいたい。
いや、思うより早く、絶対そうするだろうと思っている。
今だって、できるならそうしたい――出来るならば、今すぐに。

スクアーロがいつもの、大きな声を出してザンザスを威嚇しないのは、それが封じられているからだ。
長い銀の髪の間を縫うようにして、うなじで止められた器具が、おろかしくも醜く、スクアーロの唇を上下に広げたままにしてしまう。
小さいスクアーロの唇にようやく入るか否かの大きさの、ボールギャグを選ぶザンザスの意思が憎らしい。
開いた顎がもうだるくて仕方ない。
舌を押さえつけられて喉が苦しいし、吐き出す声は言葉にならず、動物よりも不愉快な唸り声でしかないのに、それを嫌がらないのがかえって恐ろしい。

「いい様だな」

ザンザスは嬉しそうだ。
指が食い込むほどしっかり、掴まれた膝にくるりと回る赤い紐が、二度白い肌を回って、そして位置を決めて締め付けてくる。
金具や道具ではなく、紐同士で接着するタイプの、まさにこうして夜の行為で使うためだけに用途を思案された道具なだけに、拘束の堅牢さは望むべくもないが、終わる速度は早い。
くっついた膝がもう動かせないことに、スクアーロは本能的に恐怖を感じて、肌が震えた。
それと同時に、腰の奥のあらぬ部分に熱が溜まって留まらず、閉じた膝のせいで隠しようがない股間の、腹に乗せられた性器がわずかに熱を持つ。

「ふぐぅ」

口は閉じられている。
そしてスクアーロの、もっとも重要な武器となる左の手は手首で外され、むき出しの傷があらわにされているばかりだ。
手指のない左手は、武器にもならず、自分の体の上にある男の胸を、押しのけようとしているのか、それとも引き寄せようとしているのか、男にとってはわからないほどだ。

「ひぅ、ぁ」

悲鳴なのか喘ぎなのか、もうわからない。
閉じた足の間、男ではなく女の快を得て知っているみだらな孔が、長く嬲られたせいで赤く腫れ、塗りこめ注がれたローションのせいで、小さな口をこころもち開き気味にしているのが、上から見下ろしている男にはよく見えた。
右手だけ手首をつながれて、身動きが取れないスクアーロの膝を拘束すれば、あとはザンザスの思うままになってしまう。
自由な足首を掴んで、引いてころんとシーツの上で転がせば、それはもう、男に貢ぐ場所ばかり、あらわになって、かえって可哀相にさえ思えてくるほどだ。
合わせた膝が尻を後ろに突き出すようする姿勢で、頭をシーツにおしつけるという、それはそれはみだらな格好で、スクアーロはザンザスの前にうつぶせにさせられている。
目の前に引き締まった双臀が、まるでディナーのメインディッシュのように、美味しそうに晒されて、ザンザスは知らず、ごくりと喉を鳴らしていた。
下ごしらえは済ませてある。
あとはこれを料理するだけでいい。
シンプルに焼くのもいいが、今日はこれを、もっと豪華に、繊細に、飾って弄って蕩かして、丹念に味をしみこませてから味わいたかった。

「ヴーっ!」

背後が見えないことにくわえ、自由にならない体に、生物としても、その肉体の矜持としても、一層の恐怖を感じているだろう肌がおののく。ざらっと肌が冷えて、あわ立つのが少し惜しい。
普段はもっと、吸い付くようになめらかなのに、恐れとおびえで震えるばかりなのは、料理の味を悪くするだけだ……と、ザンザスは思って、口を自由にすることにした。
首の後ろの留め金を外し、舌を噛まないようにゆっくり、顎に手をかけて、口の中に入ったボールギャグを外す。
飲み込めない唾液で濡れた口のまわりがべたべたするのが不快だったが、呼吸が自由になった途端、ふっと肌が緩んだほうがずっとよかった。

「…くっそぉ……、何、してんだぁ……」
「ああ? おまえには何をしてるように見える?」

言わせる気か。言わせるつもりなのか。
答えられずに黙り込んだ、その肌のぬくもりが行為の許可を出しているように思えて、ザンザスは掴んだ腰をシーツの上に縫いとめることに専心した。

「ちょ、」
「黙れ」

黙れといわれて黙れるものか!

口を開放されてようやく、呼吸が楽になったと思ったら、今度は別の意味で苦しくなった。あらぬところに感じる、赤眼の主の粘膜が、信じられない心地で身が細る。何してるんだ、と口に出すことも――。

「ひやぁあっ!」

肉厚の舌がべろりと舐めるのは、小さく引き締まった二つの、桃の果肉にも似た、臀部の奥だ。
すでに何度も穿たれ、嬲られ、さらにローションまで注がれたせいで、そこは真っ赤に熟れて、噛めば滴る果実の実のように潤んでいる。
血が集まってほころんだ粘膜には、自分の精の匂いが残っていて、ザンザスはかすかに顔をしかめた。
自分の味を知る羽目になるのも初めてではない。
口淫で果てた相手の唇をむさぼることもためらわず出来るのは、まさしく発情の魔術。
味覚がおかしくなっていなければ、そんなものを舐めようなどと、到底思えるわけがない。
けれどそこを、あかず丹念に、舐める動きは淀みがない。
揺れる腰を片手で抱え込んで、片手で開いた狭間をさらに奥まで、舌を伸ばして舐めれば、まるで女性の性器のようにみだらに、ひくひくと絡み付いてほころび、舌先をぎゅうぎゅうと締めつけてくる。
膝を強引に閉じたまま、足ごと抱え込まれているので、上半身をかすかによじるしか、スクアーロには仕様がない。
ずるっと敏感な粘膜をなぞれば、哀れなほどに悲鳴じみた嬌声が吐き出される。

「ひ…っ……! い、いっぁ……、ぁあ……んっ」

ローションが苦いので中途で舌で嬲るのをやめる。
遠のいた感触にほっと安堵するのが可愛らしい。

「嫌? んなこと言って、ユルユルじゃねぇか」
「二回も奥まで突っ込まれたんだぁ、しょうがねぇだろぉ…、や、やぁ、あっ」
「奥まで突いてくれってさっきまでひぃひぃわめいていたのはどこのどいつだ?」
「あ」

ぐいっと指を二本、そろえて目の前の、緩んで口を開けた後孔に添える。
吸い付くようにひくりと蠢くそこに、くれてやらないのも楽しいが、せっかくこんなによく出来ているのだ。おいしいところで食べるべきだろう。
ぐちゅぐちゅと指で中をかき混ぜれば、体温で暖められた擬似の体液が、ザンザスの手を伝って落ちてくる。
気がつけば膝が伸びて、指に感じるところを押し当てるように、腰を振りたててさえいる。
唇から漏れるのは、最初のうちよりかなり高い、懇願の声になっている。
素直なものだ。

「うまそうに食いつきやがって。まったく」
「あ、…ぁ、ボスぅ、……やぁ、……」
「止めるか?」

そんなことをいいながら、ザンザスは腰をくつろげて怒張を取り出す。
それを銀のカーテンの向こうから見たスクアーロの眼差しが、まぶしそうに細められ、壮絶な流し目をよこしてくる。

「出来るかぁ、んなこと、……くれよ」

ぞくり、と背筋が震える。寒気がする。
膝を絞られ、片手をつながれ、背中を向けて伏せているスクアーロが、銀の長い髪を振り乱して、ザンザスを欲しいとねだってくる――その姿は、まさに魔性の質を感じさせる淫蕩さ、美麗さに満ちている。ごくりと喉が鳴る。
スクアーロは美しい。
こうして奥に精を注がれる程に、美しさが増すように感じられることがある。
そんなことがあるわけがない。
スクアーロは女ではない。
そんなことはわかっている。

だが、今はザンザスの、唯一の『女』だ。
女にねだられて、拒める男はいない。

「くれてやる」

かかえて当てれば吸い付くように呑みこむ。
熟れた肉洞が、あつらえたようにザンザスを食べる。
おいしいと、もっとくれと言う。餌付けをされているようだと思う。

どちらがどちらを? 
さて、どちらだろう。

通販とイベントで配布したペーパー話。いつ配ったのかちょっとわからない…10年の5月ごろ?
現代ボスはあんまり道具とか使うの好きじゃなさげ。遊べる余裕が出てくるのは35以降かな〜。
2011.2.4
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