フェティッシュな彼氏
ブログ小ネタ
「ごめんなさぁああいいボス! 失敗しちゃったわぁああ!」

今日も今日とて、オカマの声が高い天井に響く。
いつもの怒鳴り声がそれに続くが、何故かもごもご、くぐもっていて聞こえない。

「ぁあ?」

バーン! と感嘆符つきでドアが開く。
どかどか続く足音に眉を上げて、暗殺部隊の王様が、不機嫌そうに書類から目線を上げた。
見つめていたのが苦手な十代目からのパーティの招待状だからなおのこと、眉間の谷間はたいそう深い。

うるせ……ぇ?」

何か投げようと手元にあったペンスタンドを握ったところで手が止まる。
目の前には、見慣れたオレンジの髪をとさかに立てた、マッチョで陽気なオカマと、それから。

「……なんだそれは」
「ごめんなさいボス、ちょっと昨日の怪我治すのに、ハリキリ過ぎちゃったの、私のクーちゃんがw」

語尾にハートマークをつけても、全然可愛くない…というツッコミを内心でしつつ、ザンザスは目の前に突っ立っているオカマがかかえている、、銀色をした「なにか」から、目をそらすことに失敗した。

「またやっちまったのか」
「ごめんなさい! ちょっと深くてヘンな傷だったから、跡が残ったら困ると思って…!」
「残ったのか」
「そんなこと、あるわけないでしょ。スクちゃんのオハダはスベスベでツルツル、とってもキレイよ!」
「……それでこれか」
「ごめんなさい、ボス。伸びすぎちゃったの、色々と」

色々と。
言外に匂わせる言葉にそっと、ザンザスはため息をついた。

「置いてけ」
「ごめんなさいねぇ! 髪は後でちゃんとそろえるから、それ以外をお願いしますね、ボス」
「まかせろ」

ザンザスの返事に、銀色をした「それ」が、抵抗の言葉を言った、ような、気がした。もごもごと、音がする。たぶん「やめろぉ」とか「するなぁ」とか言っているのだろう。
さすがに人体を知り尽くしている格闘家、弱っているとはいえヴァリアーの次席を、キレイに縛って梱包して連れてくるのは見事の一言に、尽きる。
退屈な仕事を一休みして、ザンザスはイスを押して立ち上がる。
ソファにぽーんと転がされた銀色の「何か」が、なんとか逃げようとしてもぞもぞするが、逃げられるわけがない。

「さて」

手を伸ばしてむんずと掴む。なんとか逃げようと往生際が悪くもがくのを、腰を捕まえて下半身を引き寄せ、尻を数回、叩いて黙らせた。

「貧血起こすから静かにしてろ。そんな格好で、医務班に輸血、されてぇのか?」
「勘弁しろぉ!」

自力でなんとか猿轡を外して、スクアーロがそう叫んだ。

「じゃ、黙ってろ」
「うー……」

ぐるぐる巻かれた拘束具を焼き切って、ついでにボロボロになり、ほとんど役にたたない(体を包む役目も為さない)隊服を綺麗にひん剥く。
ブーツを脱がせてベルトを外し、下着まで全部取って、細い体をひょいと担ぎ上げた。
確かに肌に傷はない、晴の活性化の力は見事なものだ。

「自分で行くから離せぇ!!」
「黙れ」

ザンザスはうるさそうに髪を引っつかんで浴室へ連れて行き、浴槽につっこみ、上から湯をかけて、下ろした荷物の全体を濡らす。
伸びすぎた髪が腰まで届き、なにかのモンスターのようにすら見えたので、素直にそう言って笑ってやった。
自分の姿が奇天烈なことを自覚しているスクアーロが、その言葉に怒って返すが元気がない。
やはり血が足りないのか、湯で温め過ぎると倒れるかもしれないと、ザンザスは思った。

「なぁ」
「ん?」
「なんでこんなことしたがるんだぁ?」
「はぁ?」
「楽しいのかぁ?」
「つまんねぇことわざわざするか」
「……おもしれーのか?」
「怖がるからな」

シェービングセットを出して、石鹸をあわ立てるザンザスが、こぼれそうな泡をたっぷりつけたブラシを手にする。
左手が伸びてきて、浴槽の中のスクアーロの顎を掴んだ。

「前にも思ったんだが、…おめぇ中国の話に出てくる仙人みてぇだな」
「……ああ、それかぁ…! 俺なんかに似てるなぁと思ってたんだけど、思い出せなくってなぁ」
「フン、おめぇとは反対だがな」
「そうなんか?」
「仙人ってのは俗世の欲求から離れたもんのことを言うんだ。おめぇとは正反対じゃねぇか」
「はぁ…そりゃ確かに」

ザンザスは笑いながら、石鹸の泡をスクアーロの顔に伸ばす。

ルッスーリアの孔雀の治癒の力は怪我を治す効果が大変優れている。
照射面が広いので、活性の光も強く、治る速度もたいへん速い。
スクアーロは昨日任務で腹を切ってしまった。ルッスの孔雀の照射で、腹の傷は綺麗に治ったが、そのかわり、体中の体毛が全部伸びてしまったのだ。そこが孔雀の活性の力の難点で、怪我をした部分だけでなく、全身に光を浴びせてしまうので、治る部位も広いがそのかわり、他の部分も活性化されて細胞分裂が活発になる。髭も髪も爪も伸びる。
スクアーロは普段から、顔かたち回りを含め、グルーミングにかなり気を使っているため、ルッスの晴れの光の照射で、体毛が無造作に伸びたときのギャップはハンパなかった。
元から長い銀の髪が、そろえきらずにうっそりと闇雲に長く長く伸びているだけならともかく、普段はあまり目立たない髭から眉からそれ以外、あらゆる『体毛』が伸びるのだ。
今回は腹を切ったので、全身に光を浴びる必要があった。スクアーロの体に傷を残すのは、スクアーロではなくザンザスの意向に背くことでもあったので、ルッスーリアは念入りに、傷跡も残らないように、全力で力を使ってしまったのだ。
その結果、スクアーロは、確かに怪我を含め、体の表面にあった、細かい傷まで綺麗に治って、たいへん美しい肌に戻ることになったのだが――その代償に、体中の体毛が、伸びてしまった状態で――、ここにいる。

怪我をしないようにと、珍しく黙り込んだスクアーロの顎を掴んで、かみそりをあてるザンザスの目はひどく真剣だ。
真っ赤な瞳を長い睫毛が覆い隠しているのを、間近で眺めながらスクアーロは細く息を吐いた。
剃刀が顎に当たる。あわ立てた石鹸が髭を伴って、湯の中に少しづつ落ちてゆく。

スクアーロはこれから、髪以外の伸びすぎた毛を全部、ザンザスに剃られることになるのだ。
――ぜんぶ。
全部、全身を――だ。


今日はどのくらい時間がかかるんだろうなぁ。
眩暈起こしてひっくり返る前に、終わらせてくれるといいんだけどなぁ。
せめて顔とかそんだけにしてくれねぇかなぁ。
下とか脇とか足とかは、後でいいと思うんだけどなぁ。
それこそ、輸血終わってからでもいいんじゃねぇかなぁ……?

そんなことを考えるスクアーロであったけれども、結局、銀色の仙人が銀色の麗人に生まれ変わるまで、赤い瞳の主人が、かみそりを握る手をとめることはなかった――そうな。






「ボスってホント、スクちゃんに関してはフェチよねぇ!」
「つかボスって先輩フェチなんじゃね?」
「あら、イイコト言うわねベルちゃん!」
「マジですかー。だったらボスさん、すっごい趣味悪いですねー」
「あらそうかしら、フランちゃん? 元から綺麗な恋人をもっと綺麗にしておきたいのってフツーじゃないの!!」
「へーそーですかねー。脛毛から始まってアンダーヘアまできれーに剃るのってのはフツーなんですかー?」
「何言ってるのフランちゃん、それはフツーに剃毛プレイっていうのよ? 恋人同士のちょっとしたオ・ア・ソ・ビ♪」
「あー、そうですか」






2009.9.21
敬老の日なので仙人ネタなど収録。
クーちゃんのヒーリングパネルで髭伸びた部下の絵を見て、スクアーロもああなったらどうだろう…と思ってやっちゃいました。えへw
仙人スクアーロを誰か絵で描いてくれやしないだろうか…www
つか年とったら絶対そんなクソうるさいオヤジになってるといいですね…!ジジィスクアーロいいわーww

ブログ掲載は2009年4月9日

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