いつも見ているだけですが
ベスター観察日記
肉食獣――とは限らないが、えてしてすべて、動物というものはたいへん、注意ぶかい。
迂闊に生活しているのは一部の胡乱な大人だけで、本来すべての人間はもっと、注意ぶかくあるべきだ、とザンザスは思っている。
だがしかし、こうして四六時中、気配の探りあいのようなことをするのは――さすがに、骨の折れることではある。
しかも圧倒的に、あちらのほうが、存在が大きい、となれば。

「ベスター」

声をかけてもその獣は動かない。かすかに耳が、揺れる程度。
床に横になって四肢を折り、伏せている姿勢ではあるが、別に寝ているわけではない。
そうやって伏せているのは彼等には、かなりリラックスしているということの証ではある。
ではあるが――全身で、こちらへ常に、気配を飛ばすのにも、どうにも。

「聞いてるんだろ?」

紅い瞳の主人が獣に声をかける。獣は同じく、そっと耳だけを動かす。姿勢は崩さない。
紅い瞳の主に背中を向けて、視線は部屋のカーテンの先や床の上、そんなところにあてどなく、彷徨わせて動かしながら。
全身で、気配を感じて気にしているのが、肌に突き刺すほどにわかる。

ぐぅる…と低い声が一声。それに反応して、ザンザスの腕の中で意識を失った、細くて長くて薄くて白い、銀鱗の鮫がぴくりと肩を震わせる。
しまった! とでもいいそうな気配で、さっと目線をそらすたてがみ。
尻尾が一回、床の上でぱたりと跳ねた。

「別に俺が何かしたわけじゃねぇ」

そんなことわかってますよ、とでもい言いたそうに、ふっと白いたてがみの紅い瞳の獣が、同じ色の目の主を見遣る。
一瞬だけあってすぐにそらされる、互いに相手の、目をみられない。

ラ イガーはいつも見ている。いつも感じている。いつも気にしている。
主人であるところのザンザスは勿論、一番に大切に護り、戦い、控えているが、それと同じくらいに、いや、その主が思うのよりは若干多いくらいには、王の腕の中でくうくう眠っている、銀の鮫を大切に思っている、らしい。
言葉はわからないから詳細は不明だ。
前に数回、見ている前で交わっているのを見せてしまったら、すっかり味を占めたらしい。なんの味かは知らないが。
今日も結局、動物でいうところの生殖活動を(残念ながらボスのお気に入りの銀鮫は、メスの匂いがしないけれども)、その一部始終を最初から最後まで、部屋の隅で静かに二人の行為を聞いて、じっと眺めていたのだった。

「疲れてたからオチただけだ。怪我してるわけじゃねぇ。…わかってんだろ?」

そういうことじゃないと思うんですけどね――といいたげに。
背中を見せたままでライガーは、ちらりと視線を、背後に流して。
はぁ、とため息のように鼻を鳴らし、大きな口をあけて、くわぁああ、とあくびをした。





2009.5.29
ブログに書いたコネタ。
猫っていつも見てますよね…という話。
(ブログ掲載3月28日)
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