「ちょっとぉおおいやぁあああああ」
今日も今日とて、黄色い(ピンクの?)叫び声が響く。
この、ヴァリアーの城に。
「なんでそんな格好してるのぉおおおスクちゃぁああああん!!!」
ルッスーリアは全身の筋肉を使って黄色い声をあげていた。
それこそ殺しの仕事のときのスクアーロさながらの音量だ。
さすがにフランもマーモンも耳を塞いだ。
レヴィがいなくてよかった、いたら即効お小言だ。
「うっせーな! そんなでっけぇ声出すんじゃねぇ!」
「だって出すわよぉおお! なんて格好してんのよ…裸足で靴を履くのがイタリアンよぉ、わかってるでしょぉ?」
「それくらい知ってらぁ! だがしかし、それとこれとは別だぁ!」
そう返す男は銀の長い髪を頭のてっぺんで結わえて、長く下に垂らしている。
普段見えない耳や額があらわになって、なんだか妙にオヤジくさい。
「スクアーロって結構オヤジくさかったんだ?」
「つかフツー30過ぎたらオヤジじゃないッスかねー。魔物のように若く見えても、ロン毛のたいちょーだって来年は40じゃないですかー」
「それいうなよ」
「聞こえてらぁ!」
顔を動かすと垂らした髪がぶんぶん振られて、それだけで一種の武器な何かのようだ。
幸い軽くてすべりがいいので、そんなものにはならないが。
「具合がいいんだからしょーがねーだろーが!」
そういう彼の足元は、ふくらはぎまでのボーダーのソックス。
体にぴったりしたカットソーと、膝まである短パンの下に、それはいかにもそぐわなかった。
「つかなんでスクアーロそんな寒そうな格好してんの?」
「ランニングしてきた後だからだぁ! 今日は天気がいいから暑かったんだよ」
「その格好で?」
「髪は縛ってねぇぞ! これはシャワー浴びるときに邪魔だからこうしてるだけだぁ!」
「あー、はいはい…なんか王子理解した」
「ミーもですー」
なんだそんなことだったのか、そう思いながらフランとベルは中断していたチェスを再開する。
ルッスはいやぁんと体をくねらせて、スクアーロの足元から目を離さない。
「なんでそんなの履いてるのよぉうう」
「んあ? これ踏み出すときにすげー具合がいいんだぜぇ? ほら」
スクアーロは履いていた靴をさっと脱ぐと、すらっと中から自分の足を取り出した。
その指先にルッスーリアが釘付けになる。
「なぁにこれ!?」
その指先は。
見事に五本の指の形になったソックスの中で、スクアーロのこれまた長い足の指が、もぞもぞと器用に蠢いた。
「そうだ、これスクアーロにやろうと思ってたんだった」
ボンゴレの本部で恒例になった稽古という名の手合わせが終わった後、タオルで汗を拭いながら山本武はそう言った。
「なんだぁ?」
「これこれ、最近使ってみたらすげーよくってさぁ、スクアーロにもどうかなって」
着替えとタオルとドリンクを入れたバックの中を探って、山本は何かを取り出した。
同じようにドリンクを飲んでいるスクアーロに、それを見せる。
うすっぺらい紙袋に入ったそれの中から、山本は品物を取り出した。
「これ、軍足ってんだけどー、日本の靴下なんだ。どう?」
「なんだぁこれ」
「指がね、五本指が全部分かれてるんだ。もともとは足の蒸れを解消するためのもんだったみたいんなんだけど」
「日本は暑いからなぁ」
「スクアーロにもどうかって」
「ああ?」
その言葉に顔をあげる。
「オヤジがさー、昔よくこういうの履いてたな〜ってこの前思い出してさ。
日本にいったついでに買ってきたんだけど、これがすげーいいのな! 靴の中で足が滑らないし」
「日本人は絶対靴下履くからなぁ」
「スクアーロは履かないの?」
「普通はな」
「へぇ! でもこれすげーよかったんだよなー。
いろいろ買ったけどこれが一番だったんだけど、よかったらスクアーロも使わないのな。サイズあってる?」
「まぁ物には罪はねーからもらっとく。日本のニットは世界一の技術だからな」
「よかったら感想教えてくれよな!」
そんなこんなで貰った靴下を履いてみたら、これが確かに山本武のいうとおり、大変都合がよくて履きやすい。
蒸れないし足の指がさらさらだし、何より踏ん張りが利いて寒くない。
気に入ったらからもっと送れ、そう言ったら速攻新しいのが送られてきた。
中には柄のはいったものがいくつか混じっていて、スーツでもおかしくない色もあるよ? とか嬉しそうにいわれたりもした。
「これ便利だぞぅ。ルッスも履いてみろぉ、トリコになるぞ」
「ええ? そうなの?」
「指の間が蒸れないからなぁ、走った後なんかすげーいいぞぉ」
さっきまでの不満そうな悲鳴はどこへやら、俄然興味が沸いたルッスーリアに、スクアーロは五本指の靴下の利点を切々と訴える。
「踏み込みの力がすげー効くんだぁ。滑りにくいってのもいいな。まだあるからやろうか?」
「うーん、そうねぇ、やめとくわ。どうせならアタシのダーリンに貰いたいしぃ」
「リョーヘイかぁ?」
「そうよぉ」
晴 の守護者とヴァリアーは、おそらく一番仲がいい。
それは彼が守護者の中で一番、裏表がない男であるからで、ザンザスにさえ思ったことをぽんぽん言い、笑い かけ、「そんなにしかめつらしい顔してると早くに禿げてしまうぞ? 髪は長いお友達、と日本ではいうのだ!」などと言っても、殴られない唯一の人間なの だった。
すでに結婚して二児の父になっている了平を、ルッスーリアは至極気に入っていて、イタリアにいる間はなにくれとなく世話を焼き、家族へのお土産も選んでやっている。
そんな彼だから、雨の守護者の山本武とは全然まったく別の意味で、スクアーロと案外、気が合っていてよく話をする。
ほとんどが体力つくりの話で、最近はいかに衰えた体力を維持し続けるか、という健康談義に近いものになっていた。
「けっこう便利だぜぇー」
「だからってその格好はないと思うわ。スクちゃんホントにかまわないわねぇ」
「んぁ? なんでだぁ」
心底そう思っている証拠のこの男は、頭をかしげて疑問を投げかける。垂らした髪がさらりと肩を滑る。
「ししし、スクアーロってばそんな間抜けな格好してて、よくボスに怒られないよね」
「そっちですかー。確かにボスは無類のオシャレさんですしー、隊長のその格好はないんじゃないかとミーも思いますー」
話にちゃちゃをいれつつ、二人はゲームを止めはしない。
「べつにぃ?」
二人の質問の答えだと、気がつくにほどナチュラルにそれは投下された。
「ボスは別に怒らねぇぜ? つーか、ボスがそうしろって言ってるから、してんだけど」
「は」
「いいい?」
ベルフェゴールの疑問をルッスーリアが受け取って疑問文にする。
フランはツッコミそこなったので、とりあえずその格好を上から下から見ることにした。
「この靴下履くときは足だせって言うんだぜー? めんどくせぇ」
「ボスが?」
「んだよ。じゃなかったら長いの履いてるっての。足首出してるの、寒いんだよ」
――そういう問題じゃないだろう!!
とりあえずその場にいる全員のツッコミは、心の中でだけ行われた。
「はー、…ミーが思ってたより、ボスって凄い、こう…なんかアレですね」
「みなまで言うなよ、フラン」
「ミーも命は惜しいですー」
「なんだよぉ」
「なんでもないわ! ごめんなさいね、お邪魔しちゃって! おほほほ、ささ、いっていいわよ、スクちゃん」
ルッスーリアの空笑いが、なにがなんだか全然わかっていないスクアーロの背中を押して部屋を出て行かせる。
グラスを返しにきただけのスクアーロは、ルッスーリアの手に別段問題があるとかなんとか思わずに、そのまま部屋を出て行った。
ふくらはきまであるクリームとグレーのボーダーの、五本指に割れた靴下を履いて、短パンから膝小僧を出して、腰のラインを妙に強調するカットソーに、頭のてっぺんで結んだ長い髪を垂らして。
彼らのボスであるところのザンザスが、ちょっとばかり(というかかなり)
腹心の部下にして幹部で同僚で腐れ縁で子どものころから知っていて、
たぶん恋人であるところのスクアーロに対して、
そういう意味でものすごく、かなり、たいへん、
フェティッシュであるということを、三人はしみじみと、実感、した。
(どーせ靴下の中でもぞもぞする指が
可愛いとかおもしろいとかそこらへんなんだろーな)
(なんで知ってるんだよ!)
今日も今日とて、黄色い(ピンクの?)叫び声が響く。
この、ヴァリアーの城に。
「なんでそんな格好してるのぉおおおスクちゃぁああああん!!!」
ルッスーリアは全身の筋肉を使って黄色い声をあげていた。
それこそ殺しの仕事のときのスクアーロさながらの音量だ。
さすがにフランもマーモンも耳を塞いだ。
レヴィがいなくてよかった、いたら即効お小言だ。
「うっせーな! そんなでっけぇ声出すんじゃねぇ!」
「だって出すわよぉおお! なんて格好してんのよ…裸足で靴を履くのがイタリアンよぉ、わかってるでしょぉ?」
「それくらい知ってらぁ! だがしかし、それとこれとは別だぁ!」
そう返す男は銀の長い髪を頭のてっぺんで結わえて、長く下に垂らしている。
普段見えない耳や額があらわになって、なんだか妙にオヤジくさい。
「スクアーロって結構オヤジくさかったんだ?」
「つかフツー30過ぎたらオヤジじゃないッスかねー。魔物のように若く見えても、ロン毛のたいちょーだって来年は40じゃないですかー」
「それいうなよ」
「聞こえてらぁ!」
顔を動かすと垂らした髪がぶんぶん振られて、それだけで一種の武器な何かのようだ。
幸い軽くてすべりがいいので、そんなものにはならないが。
「具合がいいんだからしょーがねーだろーが!」
そういう彼の足元は、ふくらはぎまでのボーダーのソックス。
体にぴったりしたカットソーと、膝まである短パンの下に、それはいかにもそぐわなかった。
「つかなんでスクアーロそんな寒そうな格好してんの?」
「ランニングしてきた後だからだぁ! 今日は天気がいいから暑かったんだよ」
「その格好で?」
「髪は縛ってねぇぞ! これはシャワー浴びるときに邪魔だからこうしてるだけだぁ!」
「あー、はいはい…なんか王子理解した」
「ミーもですー」
なんだそんなことだったのか、そう思いながらフランとベルは中断していたチェスを再開する。
ルッスはいやぁんと体をくねらせて、スクアーロの足元から目を離さない。
「なんでそんなの履いてるのよぉうう」
「んあ? これ踏み出すときにすげー具合がいいんだぜぇ? ほら」
スクアーロは履いていた靴をさっと脱ぐと、すらっと中から自分の足を取り出した。
その指先にルッスーリアが釘付けになる。
「なぁにこれ!?」
その指先は。
見事に五本の指の形になったソックスの中で、スクアーロのこれまた長い足の指が、もぞもぞと器用に蠢いた。
「そうだ、これスクアーロにやろうと思ってたんだった」
ボンゴレの本部で恒例になった稽古という名の手合わせが終わった後、タオルで汗を拭いながら山本武はそう言った。
「なんだぁ?」
「これこれ、最近使ってみたらすげーよくってさぁ、スクアーロにもどうかなって」
着替えとタオルとドリンクを入れたバックの中を探って、山本は何かを取り出した。
同じようにドリンクを飲んでいるスクアーロに、それを見せる。
うすっぺらい紙袋に入ったそれの中から、山本は品物を取り出した。
「これ、軍足ってんだけどー、日本の靴下なんだ。どう?」
「なんだぁこれ」
「指がね、五本指が全部分かれてるんだ。もともとは足の蒸れを解消するためのもんだったみたいんなんだけど」
「日本は暑いからなぁ」
「スクアーロにもどうかって」
「ああ?」
その言葉に顔をあげる。
「オヤジがさー、昔よくこういうの履いてたな〜ってこの前思い出してさ。
日本にいったついでに買ってきたんだけど、これがすげーいいのな! 靴の中で足が滑らないし」
「日本人は絶対靴下履くからなぁ」
「スクアーロは履かないの?」
「普通はな」
「へぇ! でもこれすげーよかったんだよなー。
いろいろ買ったけどこれが一番だったんだけど、よかったらスクアーロも使わないのな。サイズあってる?」
「まぁ物には罪はねーからもらっとく。日本のニットは世界一の技術だからな」
「よかったら感想教えてくれよな!」
そんなこんなで貰った靴下を履いてみたら、これが確かに山本武のいうとおり、大変都合がよくて履きやすい。
蒸れないし足の指がさらさらだし、何より踏ん張りが利いて寒くない。
気に入ったらからもっと送れ、そう言ったら速攻新しいのが送られてきた。
中には柄のはいったものがいくつか混じっていて、スーツでもおかしくない色もあるよ? とか嬉しそうにいわれたりもした。
「これ便利だぞぅ。ルッスも履いてみろぉ、トリコになるぞ」
「ええ? そうなの?」
「指の間が蒸れないからなぁ、走った後なんかすげーいいぞぉ」
さっきまでの不満そうな悲鳴はどこへやら、俄然興味が沸いたルッスーリアに、スクアーロは五本指の靴下の利点を切々と訴える。
「踏み込みの力がすげー効くんだぁ。滑りにくいってのもいいな。まだあるからやろうか?」
「うーん、そうねぇ、やめとくわ。どうせならアタシのダーリンに貰いたいしぃ」
「リョーヘイかぁ?」
「そうよぉ」
晴 の守護者とヴァリアーは、おそらく一番仲がいい。
それは彼が守護者の中で一番、裏表がない男であるからで、ザンザスにさえ思ったことをぽんぽん言い、笑い かけ、「そんなにしかめつらしい顔してると早くに禿げてしまうぞ? 髪は長いお友達、と日本ではいうのだ!」などと言っても、殴られない唯一の人間なの だった。
すでに結婚して二児の父になっている了平を、ルッスーリアは至極気に入っていて、イタリアにいる間はなにくれとなく世話を焼き、家族へのお土産も選んでやっている。
そんな彼だから、雨の守護者の山本武とは全然まったく別の意味で、スクアーロと案外、気が合っていてよく話をする。
ほとんどが体力つくりの話で、最近はいかに衰えた体力を維持し続けるか、という健康談義に近いものになっていた。
「けっこう便利だぜぇー」
「だからってその格好はないと思うわ。スクちゃんホントにかまわないわねぇ」
「んぁ? なんでだぁ」
心底そう思っている証拠のこの男は、頭をかしげて疑問を投げかける。垂らした髪がさらりと肩を滑る。
「ししし、スクアーロってばそんな間抜けな格好してて、よくボスに怒られないよね」
「そっちですかー。確かにボスは無類のオシャレさんですしー、隊長のその格好はないんじゃないかとミーも思いますー」
話にちゃちゃをいれつつ、二人はゲームを止めはしない。
「べつにぃ?」
二人の質問の答えだと、気がつくにほどナチュラルにそれは投下された。
「ボスは別に怒らねぇぜ? つーか、ボスがそうしろって言ってるから、してんだけど」
「は」
「いいい?」
ベルフェゴールの疑問をルッスーリアが受け取って疑問文にする。
フランはツッコミそこなったので、とりあえずその格好を上から下から見ることにした。
「この靴下履くときは足だせって言うんだぜー? めんどくせぇ」
「ボスが?」
「んだよ。じゃなかったら長いの履いてるっての。足首出してるの、寒いんだよ」
――そういう問題じゃないだろう!!
とりあえずその場にいる全員のツッコミは、心の中でだけ行われた。
「はー、…ミーが思ってたより、ボスって凄い、こう…なんかアレですね」
「みなまで言うなよ、フラン」
「ミーも命は惜しいですー」
「なんだよぉ」
「なんでもないわ! ごめんなさいね、お邪魔しちゃって! おほほほ、ささ、いっていいわよ、スクちゃん」
ルッスーリアの空笑いが、なにがなんだか全然わかっていないスクアーロの背中を押して部屋を出て行かせる。
グラスを返しにきただけのスクアーロは、ルッスーリアの手に別段問題があるとかなんとか思わずに、そのまま部屋を出て行った。
ふくらはきまであるクリームとグレーのボーダーの、五本指に割れた靴下を履いて、短パンから膝小僧を出して、腰のラインを妙に強調するカットソーに、頭のてっぺんで結んだ長い髪を垂らして。
彼らのボスであるところのザンザスが、ちょっとばかり(というかかなり)
腹心の部下にして幹部で同僚で腐れ縁で子どものころから知っていて、
たぶん恋人であるところのスクアーロに対して、
そういう意味でものすごく、かなり、たいへん、
フェティッシュであるということを、三人はしみじみと、実感、した。
(どーせ靴下の中でもぞもぞする指が
可愛いとかおもしろいとかそこらへんなんだろーな)
(なんで知ってるんだよ!)