ひとつ聞いてもいいですか
三十路のふたり
「なんとゆーかー、うちのボスさんたちってどーなってんですかねー」
「どうなってるって?」

いい天気の春先の午後の昼下がり、今日はうるさい王子(仮)がいません。
ミーはフランといいます。幻覚を使う術士です。
ミーは今、このでっかいヴァリアーのお屋敷の中で、いちばん日当たりのいい談話室でのんびりお茶などしております。
おかしいです。ミーは一応、ボンゴレ最強の暗殺部隊の術士として、ここに入隊したはずなんですがー。
ミーの想像していた暗殺部隊はもっとこう、ドロドロしててー、ギラギラしてるとこだと思ってましたのにー、ここんちはなんでこんなカンジなんですかー? 仕事の開いてる時間にティータイムとかって、本気なんですかねー? 
最近はピンクに近い赤に前髪を染めた、オカマが給仕をしてくれるってのもシュールですー。
確かにルッス姐さんの入れるお茶は超おいしいですし、お菓子は超おいしいですがー。

「どうなってるって、そのまんまの質問ですけどー」
「あの通りって…あの通りですかー?」
「そうよぉ。なぁにフランちゃん、またなんかやってたの?」

「今日はボスがロン毛隊長を膝だっこしてましたー」

「あ、そう」

オカマは「今日はいい天気ね」みたいなカンジでさらっと流しますー。
なんでですかねー、ミーちょっとむかつくんですけどー。

そうなんです、一時間くらい前に、朝に終わった任務の報告書が書き終わったので、届けに行ったんですー。
とにかく今回の任務は猛烈に頭使ってー、幻覚使いまくりでミーは気持ち悪いくらいだったのでー、明け方戻ってきてから一眠りしたんですよー。そっから起きて書いたので遅くなってしまったんですがー。
んで、ようやく形になったかなーと思って届けに行ったんですよー、ボスの部屋に。
このご時世に、報告書は全部本人提出なんですよー、この組織ってー。
まぁ詳細を問い合わせたりすんのにはー、本人が行くのが一番なんでしょうけどねー。
でも全部手書きってないと思いませんかー? パソコンの使用は禁止してないらしーですがー。

んでですねー、ミーはちゃんとノックして、返事があったから入ったんですよ、ボスのお部屋に。
そしたらボスさんがー、部屋の奥の真昼間でも日が指さないよーなとこにある机に向かってましてー、来いってゆーんですよ。
ミーは下っ端ですから、呼ばれたので行きましたよー。
そんで近づいてよく見たら、ボスさんの膝の上に、向かい合わせにあのロン毛隊長がのっかってるんじゃないですかー。
こっちに背中向けてて、ミーが近づいたらめんどくさそーに振り向いたんですけどー、まためんどくさそうに向こうむいちゃってー、ボスさんの肩に頭のっけちゃったんですよー。
いい年した男がオトコの膝の上に抱っこされてのっかってるって、これってどーゆー画面だって思いますよねー??
ふつーそれ固まるとこですよねー?

ミーはもう驚いちゃって、しばらく完璧石になってましたー。
そしたらボスが手を出して、でもミーが固まってるからそのうちイライラしはじめて、「よこせ」って言われてよーやくミーは石化が解けましたー。すごい威力の魔法でしたねー。あんな石化魔法ひさびさでしたー。
んで、ミーが報告書を差し出したんですが、ボスさんは膝の上に隊長のっけたまんまじゃないですかー。
ボスさんの手が届くとこまでミーが近づかなくちゃいけないんですよー。
ロン毛隊長が抱きついてるってゆーかー、乗っかってるボスの近くにすすすと寄って、手渡ししたんですよー。
ミーは一瞬、ここでロン毛隊長が下履いてなかったら怖いなーって思ってたんですけどねー。
でもそーゆーことなら、ミーに返事するまえに待たせておけばいいじゃないですかー、そう思いませんかルッス姐さんー?

「…あなたもだいぶ対応のしかたがわかったようじゃないの、フラン」
「昼間っから情事にふけってるとか、そーゆーのちょっとイマドキじゃないですねーとは思いますけどねー。マフィアなんだからありかなーと」
「…それで?」

えーと、それですねー、幸い隊長はちゃんと服着てたのでミーはちょっと安心したんですけどー、書類渡してボスがそれを確認して、そんでいくつか質問されて答える間、隊長はずーっとボスの膝の上に乗っかってたんですよねー。
ミーはボスの顔とロン毛隊長の髪の毛を眺めてたんですけどねー。
いくつか質問したらもういいってんでミーは退出の許可もらったからー、あーよかったと思ったんですよー。

「ふぅん…? スクちゃんそんときちゃんと服着てたの?」
「来てましたー。隊服着てましたよー」
「そうなの? それでボスに跨ってた、と…」
「姐さんその言い方やらしーですー」
「あら、そう聞こえたかしら」
「ミーはまだ純真な青少年なんでー」
「腹黒い、ね。それで何か?」
「いえー、ボスさんってソッチの人なのかなー、とちょっと不思議に思ったんでー」
「そうねぇー、……そういう意味ではボスはオンナを嫌いなのかもしれないわ」
「そーなんですかー?」
「そうよぉー。ハジメテのオンナに酷い目にあったんですもの」
「げぇっ。そんな悲惨なことがあったんですかー?」
「…アナタなんでそんな変な悲鳴あげるのかしら。まぁそれは置いといて、ちょっとアナタの想像とは違うわよーフランちゃん」
「ナニが違うんですかー、初体験で失敗したとか役に立たなかったとか早かったとかヘタクソって罵られたとかそういうことじゃないですかー?」
「かわいい顔して下品なこと言うわね。……ねぇ、フツーの人間の人生最初のオンナって誰だと思う?」
「そんなのミー知りませんー。人のシモの事情なんか千差万別じゃないですかー」
「大抵の人間はみんな同じオンナよ」
「へー? ……あ、マンマのことですかー?」
「そうよぉ。ボスはほら、そのオンナに結構、酷い目にあったから……」
「あー、そういう意味ですかー」
「それもあるんじゃないかと思うのよね。よく言うじゃない、母親との縁が薄いとオンナ嫌いになるって」
「そーゆーカンジなんですかー?」
「近いところあるのかもしれないわねぇ。ボス、基本的にオンナ嫌いっていうか、好きになったことなんかないんじゃないのかしら」
「そーなんですかー? フツーに考えてもモテモテでよりどりみどりって気がしますけどー」
「だからよ。自分から欲しがったことなんかないのに、満腹になるほど食べさせられたら、どんなにそれがおいしくても、嫌いになるでしょ?」
「はぁー、そういう意味ですかー? なんかすごいですねー、ミーには想像つきません」
「想像力がない術士なんか駄目よぉ。妄想と想像が力になるんじゃないの?」
「そんなことはありませんー。人にそれを見させるのが仕事ですのでー、コッチは何も想像しないほうがいいんですー」
「…そうだったの? 知らなかったわー」
「姐さんは術士にどんな夢見てるんですかー」
「見てないわよぉ〜。で、なに?」
「ボスさんはオトコのほうが好きなのかなーって思ったんですー」
「オトコっていうかスクちゃんが好きなのよぉ」
「? ロン毛隊長はオトコじゃないですかー。オトコが好きなんですかー?」
「セックスの嗜好というなら二人ともノーマルなんじゃないのかしら。まぁ今は凄いまっとうなゲイカップルにしか見えないけど」
「……姐さんも言いますねー」
「ボスはオンナ嫌いというか人間嫌いだし、スクちゃんはボスしか好きじゃないんだから、別に問題なくはないでしょう?」
「そーゆー問題ですかー、それー?」
「まぁスクちゃんがボスのオンナだってのは都合いいのよねー。誰もスクちゃんに手を出さないし、本当の女じゃないから取り合いになって揉めることはないし。子供は出来ないし、誘拐も監禁も脅迫もされるほど弱くないでしょ?」
「そーゆーことあったんですかー?」
「そこらへんは察してちょうだい。別にボスも昔からああだったわけじゃないのよぉ。ちゃんと外に愛人もいたの」
「へぇー。フツーにマフィアやってたんですねー」
「それはそうよ。ある意味英才教育受けてたんだもの、それくらいはしてたわよ」
「……それが真昼間から膝抱っこして仕事するよーな人になるんですかー?」
「そうよねぇ、いくらスクちゃんが薄いからって、あの子、骨と筋肉しかないから意外と重たいのに。そんなの膝に乗せてるのって、いっくらボスだって、大変だと思うのよねー」
「そっちですか!」

2009.4.7

当然膝にのっけて仕事しながら悪戯してる真っ最中でした。

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