甘くて甘くて甘いのよ
日記に書いている小話ログ


「甘ぇ」
唇を離した男はそう呟いた。
わかってる、というかわかってるからキスしたんだろ? そう思いながらスクアーロは返事が出来ない。
すでに酸欠になった脳みそは正しいことを考えつかない。ただ甘い。口の中も、唇も、それを味わいつくした目の前の男の唇も。
「なんだ、…生クリーム?」
赤い瞳の主が呟く。さっきまでさんざん口の中で堪能していた味を自分の舌で舐めて思い出している。視線が少しずれる。なのに指は肩をつかんだまま離れない。痛くはないが、離そうとはしない。指先にほのかな執着を感じるのは気のせいだろうか。
窓の外ではひどい風が吹いている。春の嵐が今年は早い。冬が短いのは夏の旱魃を意味する。あまりいいことではない。

「ああ、…味見したんだぁ」
「ケーキでも作ったのか?」
「ああ、ルッスが、……デートだと、作ってたのを…味見、しろって」
「力――入ってやがるな、」

そう言ってまた唇を舐める。濡れたザンザスの唇。目が離せない。厚みのある上唇をゆっくり、見せるように舐める。誘ってるつもりではないと知っていた、けれども。

「最近凝ってるんだって…グラハムサンド、イチゴが出たから…三日くらい、毎日……ッ、」
「甘い」

そういいながら首を隠すシャツのボタンを外す、下に来ていたタートルのシャツの下に手を伸ばす。
触れた指先が冷たいのか、触れた傍から肌がざあっと粟立つ。それがそれで面白くて、――楽しいらしい。

「甘くて悪かったなぁ」
「悪ぃとは言ってねぇ」

鼻歌でも歌いだしそうな勢いで、ザンザスは手早くスクアーロの服を脱がす。もう何度やったことかわからない。脱がされるほうもなれたもの、手を上げて肩を振って協力する。手を伸ばす、髪を撫でる。子供にするように撫でる、それが好きらしい。ザンザスはどこか子供っぽいところがあって、そういう子供にするような動作が好きなのだ。髪を撫でたり、背中を軽く叩いたり、胸に吸い付いたりするのが好きなのだ。

「どうしたぁ?」
ザンザスが楽しそうなので少し嬉しい、まったく単純すぎて困る、自分が――途中で上げていた頭をぱふんとシーツに倒して、天井を見上げる――天蓋つきのベッドにそんなものはないが。
「何が楽しいんだぁ…ヘンなこと考えてるんじゃねぇだろうなぁ」
「――どんなことだ?」
がりっと胸に歯を当てられる。びくんと腰が跳ねる。それを許されずに押し付けられる。単純、なのはどっちだ。
どっちもだ。

「甘い」
「…なんもでねぇよ、…」
「出たらそれはそれで人体の神秘だな」
「…あんたそこ好きだなぁ……」
「かじってやるとおっ立ててやがるのはどいつだ」

だからそれだってアンタのせいだろぉ。
返事はまだ少し、甘いままの唇の中に消えた。
マンマの胸にかじりつく癖が抜けないこの情人の、悪い愛撫の手管をつけられた自分に、内心でため息。
そんなことを思うのも、甘い毎日の繰り返しだと、ようやく二人は実感しつつある。
初めて唇を重ねてから、もう十年以上が過ぎているが、実際はまだ、倦怠期にもほど遠く、じゃれる毎日がただ、楽しいだけだった。





2009.2.15
バレンタイン話をスルーしてこんなネタを…すんません。
2009.3.18ザンスク話に移動しました。
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