今日も書類がたんまり残っていた。
ザンザスは元は生真面目なおとなしい男なので、毎朝同じ時間に起きて仕事をし、
それが一段落つくまでは夜遅くまで仕事をし、終わったら少しだけ酒を飲んで、
スクアーロがいなければすぐに寝てしまうような生活をしていた。
そしてそれを別段退屈だとも思わない男だった――本来は。
スクアーロがいるときはその限りではない。
朝は起きないでベッドで鮫を弄繰り回しているし、
食事はベッドの中でスクアーロに手で食べさせるし、
使えるものはなんでもスクアーロに突っ込んだ。
長く仕事で外国に出ていて、久しぶりに戻ってくればつい本気で殴りあって、そのままベッドに突っ込んで貪り倒した。
今回は割と自堕落な生活のほう、半日ベッドでだらだらしていた。
もっともみなが休みを満喫する休日だったので、それは別段悪いことではなかった。
暗殺部隊に休日があるのか、といわれればそれまで、だったが。
「俺が死んだらどうする?」
そんなことを言い出したのも、ちょっとした気まぐれだった。
「んー? なんだそれ」
「もしもの話だ。俺が死んだらおまえどうする?」
長く睦みあいすぎて体がきしんでいた。お互いに無理をすると翌日に響くようになってきていた。
ザンザスよりスクアーロのほうが早くそれを感じていた。
性欲は三十代までは普通に残っているが、それを過ぎればあっというまに減ってゆく。
最近は時間を長くかけるようになった。遊び方を覚えたせいかもしれない。こんな言葉遊びもその一つだ。
「おまえが死んだら? そうだなぁ…」
スクアーロはベッドに寝転びながら考える。寒いので布団をかぶっているが、その下は半日ほど服を着ていない。
「そうだなぁ、おまえが死ぬとしたらなんでだろうなぁ、病気とか、殺されるとか? 事故、はなさそうだなぁ」
「ずいぶん具体的じゃねぇか」
「んー、病気で死ぬならガンとかだろうなぁ。
そうなったら俺その前にアンタに殺してもらうから、アンタ死んでるときにはたぶんこの世にはいねぇよなぁ」
……そんなことを言うスクアーロの、目は全然笑っていなかった。
「アンタが誰かに殺されるようなことがあったら、そん時に俺がいねぇわけねぇだろうし。
アンタがみすみす殺されるようなことが起きたら、俺ぁアンタ守れなくて死んでるんじゃねぇかなぁ。
そこらへんで転がってるんじゃねぇ?」
「…またオマエ先に死んでるのか?」
「だってそうだろぉ、おまえ看取るのは俺の仕事じゃねぇし、ボス守れないんなら俺の意味はねぇしよぉ」
背中を落ちる髪は銀の滝、歳を経て指にその感触もおそろしいほど馴染んでいる。
「あとはなんだぁ? あんたが事故にあうとかありえねぇし、歳くって大往生とかしてたら俺ぁ絶対先に死んでるだろうしなぁ…」
妙に自信がありそうにそんなことを言う。
「だからザンザス、おまえがもし死ぬようなことがあったら俺は先に死んでるってことだなぁ!
そしたら地獄で待っててやるぜぇ!」
そんなことをひどく生真面目に言う銀の副官に、
なんだかザンザスはやるせない気持ちになってしまって、つい感情のままに拳を作ってその小さい頭を殴ってしまった。
大声で痛い痛いと怒鳴る声をきいて、確かに死ぬときにまでこんな声に見送られるなんてのは、
うるさくてしょうがねぇなぁ、ということをザンザスは実感した。