三つ数えるまでもない
日記に書いている小話ログ


「なぁ」

いつものように書類をひっくりかえして中身を確認し、
いつものようにザンザスの仕事を手伝っていたスクアーロが、ソファに座ったまま突然そうつぶやいた。

「ああ?」
「もし俺が死んだらどうする?」

それはどうってことのない戯言の一つだったのかもしれない。時々スクアーロはそんなことを言う。
昔はそうでもなかったが、さすがに四十を過ぎてからはあまりそういうことを言わなくなった
。実際そうやって死んでいったものの数が、若いころよりも圧倒的に増えたせいもあるかもしれない。

「ぁあ?」
「もしも、さ――、俺が、どこかで死んでしまったら、…アンタ、どうする?」

そんなことを言う横顔は、白くて綺麗でいつもの通り、長い髪の先もさらさら、
今日はいつもよりきちんと洗ったからずっと、つややかに光っている。
さすがに前よりは艶がなくなってはいたが、それでも存分に愛でるにはじゅうぶん、
ザンザスの手の中でほどけて流れる手触りを誰より彼は愛している。
どんな返事を欲しがっているのかわからないが、ザンザスはその横顔を眺めながら、
自分が思っていることをただ素直に口にした。

「オマエの葬式を出して、それが終わったら死ぬ」
「……へ?」

ぽかんとした顔は相変わらずバカみたいだった。
相変わらず歳を食っても妙に整って綺麗な顔は、こうやって虚をつかれたりするときは本当に、
散る寸前の花みたいな顔になる。それが見られただけでも答えた甲斐があるな、とザンザスは思った。
自然に口元に笑みが湧く。

「…本気かぁ…?」
「ぁあ? なんかおかしいか」
「……あー、………」

話ながら耳たぶがかああっと赤くなるのが見えた。
首の下から順番に、赤くなってくるのを見るのは酷く楽しかった。

「マジかよ…」
「おまえの葬式くらいは出してやる。それが終わったら全部終わりでいいじゃねぇか」
「なんで」
「おまえがいなけりゃつまんねぇだろ。生きてたってしょうがねぇ」

そういえば、ソファの上でスクアーロが固まった。
なんだか、喜んでいいのか、悲しんでいいのか、それとも何か別の何かの顔をすればいいのか、
本当にわからない顔でこっちを見た。
ザンザスがその顔をずっと見ていると、すぐに目をそらして下を向いて、それからまたこっちを見て、を繰り返した。
いつまでやるのかと思ってザンザスはずっとそれを見ていた。

そういう顔をするからおもしろいんだ、だから退屈しねぇんだよな。
そんなことくらい、いいかげん察しろよ。





2009.2.13
「ものは請われる人は死ぬ三つ数えて目をつぶれ」確かストリートスライダーズの曲のタイトルだったような気が。
一応死にネタですかね、これ。
コネタ集からザンスク話に移動しました。(2009.03.18)
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