わたしはあなたのオモチャなの・2

その日もまぁいつもの通りのフルコースだった。

昨晩は報告書の説明を求められて執務室へ行き、ドアを開けたら灰皿が飛んできた。報告書の文字が汚いといってペンが飛び、うるさいと言って拳が飛び、文句を言えば蹴りが来た。ちょっとした隙に担ぎ上げられてソファに押し込まれ、服を剥ぎ取られて足をつかまれた。そうなったらいつもの通り、指で弄られて高められて舐められて、解されて濡らされて突っこまれた。
ぐったりしてるところを荷物みたいに運ばれて私室のベッドにダイビング。そこでまた揉まれて摘まれて扱かれて突かれて吐き出した。
抵抗したら顔に拳、痣になるから顔はやめとけって最初に言ったよなぁ、とスクアーロは思った。
明日本部の護衛に付いて来いって言ったのあんたじゃねぇか。顔に痣とかつけるとあとで面倒なのはアンタだろう。十代目にネチネチ嫌味に聞こえない嫌味を言われるの羽目になるのはあんたじゃねぇか。…まぁ最後は自分に八つ当たりされるんだけど。
しかしそれがあんまり酷いので、三回目が終わったあとで文句を言ってみた。殴る蹴るだけじゃなくて今日は弄る舐める揺する突くまでがやけにしつこかった。おかげでえらい疲れた。体を起こすのも億劫だったが、これだけは言っておかないと気がすまない。声がガラガラであんま迫力も説得力もないけどな。
「う゛ぉおおい! ボスさんよ、俺ぁアンタのオモチャじゃねぇぞぉ!」
「んあ? なに言ってるんだカス」
ボスはその声が聞こえたのか、起き上がってシャワーを浴びようとしてる足を戻してきた。蹴られるかな、これは。
「おまえ相当馬鹿だな。それの何が悪い」
「はっ!?」
こう返されるとは思わなかった。
「おまえが俺のオモチャでなんか都合が悪いことがあるかって聞いてるんだが」
「な゛ぁああああ? 悪いに決まってんだろうがぁ!」
「なんでだ?」
なんでそこでそんな「意味わかんね」みたいな顔するのだボスさんは! 反則だぜぇ!
スクアーロは珍しいボスの表情に一瞬自分が何に怒っているのかを忘れた。
「それのどこが悪い。遊んでやってるんだ、ありがたく思うことはあれ、てめぇに非難されるいわれなんかこれっぽっちもねぇと思うんだがなぁ?」
ザンザスは珍しく畳み掛けるように答えた。
「なっ」
「いいかカス」
ぐいっと頭を引っつかまれた。大きなザンザスの手で頭をつかまれると、スクアーロの小さい頭はほとんど手の中に入ってしまう。
「おまえは俺のオモチャだ。壊れるまで何度でも治してぼろぼろになるまで使ってやる」
「え…?」
「俺はすぐぶっ壊れるようなヤワなおもちゃなんざいらねぇんだよ、わかってんのか?」
そう言いながら、ザンザスはスクアーロの白い頬に舌を出して、それをべろっと舐めた。
「ひっ!」
びっくりしてザンザスを引き剥がすスクアーロの顔は見もの過ぎた。
ザンザスはそれを見て思わず笑みを浮かべた。驚いた顔をするスクアーロは本当に面白い。額の殴ったあとが青くなっていようが、ひっぱたいた頬が赤くなっていようが、キスしすぎた唇が濡れて光っていて、なおかつ殴って切れた傷がふさがりかかっていようが、とてもかわいらしくていとおしい。
「うるせぇ」
がすっと蹴りを入る。しかしまぁ、ずいぶん軽く蹴り過ぎた、とザンザスは思った。スクアーロはよろけもしない。
手加減をしてやってるどころの話ではない。ただの照れ隠しだ、とザンザスは自覚していた。愛の言葉よりよっぽどマシな行為ではないか。
「なんか文句あるか?」
そう言って笑えば、おもしろいように顔が赤くなるのがわかった。スクアーロはそういうときのザンザスの笑顔がたまらなく好きなのだった。すぐに黙り込んでぼうっと見とれる顔になる。それを知っているのはお互いさまなのだから、つまりは相思相愛ということでいいのではないのかと思うのだが、いま少しスクアーロにはわからないらしい。
「…な、ない。…たぶん、…うん、」
ぶんぶんとスクアーロは頭を左右に振る。髪がばさばさ揺れる。少し荒れている。早くこれを洗ってやりたい、とザンザスは思った。意外と人の髪を洗うのは楽しい。それをするとスクアーロは全然嬉しそうじゃなく、困ったような顔ばかりをするのだが、そういう顔をされると一層弄繰り回してやりたくなる。このオモチャは本当に楽しい反応をすることを、肝心のオモチャは気がついていない。だがそこがいい。
そこまでして大切にするおオモチャはスクアーロしかいないんだということを、いい加減ザンザスも気がつけばいいのだがそうもいくまい。
「たぶんじゃねぇ」
そういうとザンザスは背中を向ける。スクアーロはそのあとをひょこひょこついてゆくのだが、もうその背中はさっきまで怒っていた内容などすっかり忘れていた。



そしてそのくだりをディータイムのついでにスクアーロに聞かされた幹部たちは、顔を見合わせてため息をついた。
「……なんだかボスがかわいそうになってきたわ」
「王子甘くて死にそうなんだけど」
「…馬鹿の馬鹿らしく馬鹿による馬鹿のための言葉だね」
「ししし」
「上流階級のオモチャの値段聞いたらひっくり返るんじゃないのかな、スクアーロは」
「そうよねぇ」
「ボスの部屋にあるオモチャってアンティークとかそんなんばかりなんだって知らないんだろうね。あれは相当つぎ込んだと思うよ。九代目が使ってた木馬とかあるんだよ。あれは相当な値打ちものだね、ボクが見たところによると。こっそり売っても気がつかないだろうけど」
「しょうがないわよ、スクアーロはオモチャとか貰ったことないんでしょうから」
「だろうねぇ! 王子はたっくさん貰ってるけどね! シシシ」
「価値がわからないってことは悲劇だね」
「つか喜劇っぽくね?」
「どっちでも同じじゃないのかしら」


2008.10..21
30年ものの木馬とか揺りかごとか割と普通らしい。
フランスとかイギリスの小説にはそういう描写が割と出てくるんだけど、イタリアだとどうなんだろう?

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