Your My Family
一応誕生日お祝い話…のつもり(原作ネタバレと捏造満載ですけれど)。
「ルッスーリア、……極限に個人的な頼みがあるのだが」

そんなことを真剣な顔で言われたのは初めてで、晴の属性の指輪が右手の薬指できらんと光ったのがルッスーリアには見えた。

「なぁにリョーヘイ? 私でよければ相談にのるけど」
「うむ。…ルッスーリアなら、わかると思うのだが…」

そんな真剣な顔で詰め寄られて、ニコニコしてしまう自分を彼女はよく知っている。これはどんな感情なのかしら、小さいかわいい生き物だったころから、この少年――いまはすっかりイイオトコになっているけれども――は、彼女の一番のお気に入りだったのだ。

「結婚指輪を、見繕ってもらえないだろうか」
「まぁ! ……本気なのね?」
「うむ」

そう言うと、耳の後ろがぽうっと赤くなった。なんというかわいらしさだろう!
「前から付き合ってるって言ってた子ね? 向こうもOKだって?」
「う、うム…今度、日本に帰ったら、ぷ、ぷろぽーすを…し、しようと…、思って、い、…いるのだが」
だんだん声が小さくなって、言葉がたどたどしくなってくるのを、ルッスーリアはにやにやしながら眺めていた。ああもう、なんてかわいいのかしら、リョーヘイったら――と思いながら。
「いやぁねぇ、なんでそこで赤くなるのよぉ! カノジョの前で失敗するわよぉ」
「い、いや、…その、………。だ、駄目だな、なんだか、……ルッスの前だと、緊張する」
「あら、そうなの?」
「京子に言うのよりも極限に何倍も緊張するのだ…、おかしいな、………」
「うふふふ」
真っ赤になって、しどろもどろになってそんなことを言うこの青年を、気に入って何年たつのだろうか、とルッスーリアは考える。彼女にしては長い時間、ヴァリアーのメンバーの次に長く、生きて彼女と「普通に」つきあっている人間の、貴重なひとり。

「どんなのがいいのか、わからなくて。……ルッスに見繕ってもらえたら、いいのではないかと思うのだが……都合はつくだろうか?」
「いいわよぉ! なんだか私も嬉しいわぁ。…息子が結婚するのってこんなカンジかしら」
「なんだそれは。息子というほど年が離れているわけではあるまい」
「たとえよた・と・え! ちょっとそんな気分になったのよ」
「……それは、ルッスが俺を、家族のように思ってくれているという意味か?」
そんなことを、さらっというあたり、教育が行き届いたせいなのか、元から持っていた資質なのか、見定め難いところではあるが。

晴の守護者の属性の通り、彼の感情には曇りがない。
裏も表もない、彼が好きならそれは好き、彼がいいならそれはいいことなのだ。
駆け引きのない感情は、ルッスーリアのような人間にはたいそう付き合いやすいものではある。
了平は基本的に偏見というものがない。他人を容認する気質に驚くほど長けている。
容認するがそれ以上に自分に自信があるものだから、気がつくと自分の好みを人に勧めることになっている。
押し付けているつもりはないのだ、彼は。否定しないからいいのかと思う、つまりはちゃんと「言って」くれ、ということで、自己主張は人生の必須条件な欧州の風土に、彼はひどく馴染んでいて、日本とイタリアの連絡役として、笹川了平は一番、どちらのスタッフにも好まれていた。
気難しいザンザスや、他人に興味がないスクアーロや、人に厳しいレヴィにさえ、彼は一番初めに受け入れられ、認められている。本当のことしか言わないから、一番先に信用されるのだ。
体で語ることを選んだ男は流石に、動物のように獣たちの中に入り込む。

「…家族、かしら、…ねぇ……」
そういうルッスーリアの声色に、了平は気がついているのかどうか。
「俺は、……ルッスを家族のように思っているのではないかと思う。………京子にはいえないことも、ルッスーリアにはいえるからな」
「そうなの?」
「…結婚は、…正直、まだ早いかと思っているのだが……」
了平はそういうと手を顔の前で組んだ。意外と短い指、関節が見えないやわらかい手の甲。それは筋肉で覆われているから、さわるととてもやわらかい。了平の手はいつもあたたかい。
「京子は、……ツナと、結婚するのではないかと踏んでいるのだ。……そうなったら、いつまでも、日本にいるわけにはいくまい」
「……そうね」
今は日本支部とイタリアの本部と、年間半分づつの滞在で済んでいる。日本支部は大規模な地下施設を数年がかりで作っている最中で、その進捗具合や資金調達、工程の見直しや細かい打ち合わせが続いて、ここ半年は綱吉は日本に詰めっぱなしだ。
「まだ先のことだと思っているのだが、……そうなったら、おそらくイタリアに来なくてはならなくなるだろう」
「そうねぇ、ファーストレディがドンと一緒に人前に出ないなんてありえないもの」
「そうだ。……そうなったら、……俺の両親は、京子に会えなくなってしまうだろう。関係者であると、知れるのはあまり、いいことではないからな」
「……そうね」
「その前に、……俺が結婚して、両親を、安心させてあげたいのだ。彼女には、日本にいてもらうことになるが、……」
「まぁ、そうなの? なんだかまるで、ドン・ボンゴレのおうちみたいじゃあなぁい?」
「―――うっ……そ、そこを突かれると、……極限痛いな」
「冗談よ」
そういって笑えば、了平はまた、困ったような、嬉しそうな顔をする。単純なことしか言わないはずなのに、いつからか彼が一番、大人の憂いの表情を、その横顔に浮かべるようになっていた。1年早く1人だけで、この世界に足を踏み入れた結果なのかもしれない。
「そうすぐには結婚は無理かもしれないが、…約束だけでも、したいのだ」
「ツバつけとくってこと?」
「……う、うむ……ま、まぁそうだ……」
「真剣ねぇ。そんなリョーヘイに思われるってうらやましいこと」
「……おんなじだ」
ルッスーリアの言葉に了平は、おもわず顔をほころばせて、にこっと笑う。

「彼女にも、同じことを言われたのだ。俺があまり、ルッスのことばかり話すので」

――そんなことを、満面の笑みで言うものだから。

「京子のこと聞くのより、そのオカマの同僚さんの話聞く量の方が多いみたいだ、って……あまりこういう話をしてはいけないと思うのだが、つい、彼女にはルッスーリアのことを知って欲しくて、……いろいろなことを話してしまって……だな」
「あらいやだ。それってフツー、誤解されるんじゃなぁい?」
「…実は二回ほど、されたことがある。極限危なかった」
「あら。事実にしてあげたほうが彼女にはよかったかしら」
「それは極限困る」
笑いながらちょっとばかり目が真剣に、了平はルッスーリアを見上げた。
「俺はルッスーリアを家族の、……俺のファミリーの1人だと思っているのだが……。家族はどんなに離れても家族だ。……俺は、ルッスーリアを、京子と同じくらい大切だと思っている」

「……うれしいこと、言ってくれるじゃないの」
「………き、緊張するものだな、……こんなことを真面目に言ったのは、初めてだ……」
目をそらせばじわじわと、了平の顔が真っ赤になる。耳なんか真っ赤になって、短く切りそろえた髪が、それを隠しきれていない。
「だ、だからだな、その…彼女に贈る指輪を選んでほしいのだ。……ルッスーリアに」
「家族として?」
「……友達でもかまわないが、……俺はルッスーリアはもっと、ずっと大切だと思っている。が、それは俺の気持ちだ。ルッスーリアに強要するのは筋ではないこともわかっている。迷惑なら断ってくれ」
「やぁねぇ! アタシが了平の楽しみを迷惑だなんて思うわけがないでしょう? そんなオイシイチャンス、逃すものですか!」
「…そうか?」
「そうよ」
そう言ってうふふ、と笑えば、了平もにこにこ笑い返してくる。そうしてしばらく、笑いあって、了平はすっと表情を引き締めた。

「……こんなときに、これを渡すのも、正直どうかと思うのだが…。今年はちゃんと、直接渡せるから、よかった」
懐に手を入れる。ルッスーリアは意味を計りかねて、少し間を置いた。
「これを。ルッスーリアの今の髪に似合うかと思って、色を合わせてみたのだが、……どうだろうか」
小さい箱を差し出す。リボンがくるりと巻いてあるだけの、シンプルなラッピング。
さっそく開ければ、中には青みがかったピンクのピアス。スワロフスキーのカットクリスタルだと一目でわかる、まばゆい輝きの、しかしシンプルなデザインのもの。
「あら、かわいいわぁ」
「ここのところいつも、郵送や言付けばかりだったので、直接渡せて極限嬉しいぞ」
「あら、何のことかしら…って、あら? あらら?」
ピアスを手にして表情がだらしなく崩れてしまうのをルッスーリアは感じた。
そしてこれは何かしら、と考える。一瞬。
そしてすぐに気がついた。ここ数日忙しくて、今日がなんの日だったか、忘れていたのだ。珍しく。
確かにここ数年、笹川了平はこの時期、日本では年度末の決算関係で忙しくて、いつも日本からプレゼントを、律儀に贈ってきていたのだ。それはもう、学生の時代から、ほぼ十年近くも。

「Buon Compleanno、ルッスーリア」

「あら、…あらあら、……あら、………」


一番最初にその言葉を口したのがこのオトコだったとは。
先月までは覚えていたのに今日はすっかり忘れていたわ、ワタシとしたことが! なんたる不覚かしら……などと思いながら、ルッスーリアは喉がつかえてきたので下を向き、鼻がたれてきたので背を向けた。
こんなみっともない顔をダーリンの前で見せるわけにはいかないわ! と懸命に堪えたつもり…だったのだが、了平がすかさずハンカチを差し出してきたので、ありがたく受け取っておもいきり鼻を噛んだ。



2009.4.4
ルッス姐さん誕生日おめでとう!…がこんな話でごめん…。
ルッスを愛する各方面の諸氏に捧げます。結婚ネタですけれどもね!SかさんとかS太さんとかSみさんとか。
Back  
inserted by FC2 system