我が身を焼くは地獄の業火

あいつはそうだな、手足が馬鹿みたいに長いんだ。
一緒にスーツフルオーダーしたことがあるからわかったんだが、
身長が違うのに俺より手が長いんだ。まぁ2センチくらいだったがな。
おかげでどんなスーツを作ってもパリコレモデルになっちまう。
しかも義手のせいで年中手袋してるもんだから(それは俺もだが)、
いっそうなんだかアレだ、スーツはマジでパーティにしか着せていけねぇ。
また指が細くて長くて骨ばっかで、こんなんでよく刀振り回せるもんだと俺は思うんだが、
やつに言わせると体に余分な重さがついてると、うまく動かすのに骨が折れるとかいうことらしい。
まぁ太刀筋が軽くなったら意味がないから、そこまでは軽くしていないという話だが、
それにしたってあいつの体にはどこにも余分な肉がついていねぇからな。
もう少し肉がついたほうが抱き心地がいいとは思うんだが、……まぁいい。


そういうことから言えば、俺とはまるっきり逆なわけだな。
俺の炎は生体エネルギーそのものだ。どういう原理なのかわからねぇが、あれは体力と密接に関係してる。
純粋な意思の塊でもあるし、エネルギーそのものでもあるものなんだ。

それを常に維持するのは、膨大な体力がいる――つまり体の中のあらゆるエネルギーを変換しなけりゃならねぇ訳だな。
俺がアルコールをバカスカとってる割にデスクワークばっかしてて、でもぜんぜん太らねぇのはそういう訳だ。
メシも普通に二人前は食うしな。
元から骨が重い体質なのもあるが、普通あれだけ食って飲んだらとっくに腹に脂肪を巻いてるわな。そうだろ?
だけどなぁ、炎があるとなぁ…そういうわけにはいかねえんだよ。

あの晩は相当ヤバかった。あの晩ってのはあれだ、大空戦のことだな。ほかになにかあるか?
実際のところ、正直言えば――あそこまでてこずったことははじめただったが、
最後に俺がぶっ倒れたのは、怪我もあったが正直動けなかったからだ。
後で確認したら、一晩で体重が六キロも減りやがったらしい。
普通死ぬぞ、そんなことになったらな。

しかもそのとき、俺の体の表面、服で覆われていなかった部分はもれなく全部凍傷にかかってた。
程度は軽いから、後で面倒なことにはならなかったんだが――
普通なら、手の指が全部なくなっていたところだったんだろうなんだが、幸いというかなんというか
――俺は体の中から、炎で暖めることができたから、手足の指は全部残ったってわけだ。
それが完全に消えていたら、たぶん俺は指の1本や2本はなくしていたんだろう。
それ以前にどっか内臓やられてただろうな。

校庭でぶっ倒れた後は一日目がさめなかったらしいな。俺はぜんぜん記憶がねぇ。
目が覚めたのはあれから二日後の午後で、しらねぇ場所で寝かされてて、
俺はとうとうあの世とやらにいったんじゃねぇかと思ったな。
まぁ、あの世があんなに白い場所であるなんてことはおもわねぇが。

俺が行くのが地獄だろ? 地獄ってのはもっと毒々しいんじゃねぇのかね。
まぁ、そんなことは知らないが――幸いといかなんというか、俺はまだそこまで行ったことがねぇんだよ。

それに限りなく近いところには最近までいたんだがな。
そうだな、あの八年間の氷の中はたぶん、意識があったら地獄だったんじゃねぇのかな。
残念というかなんというか、俺はそれをあまりよく覚えていない。
覚えていたらまぁ、正気じゃなかったとは思うがな。

だってそうじゃねぇか?

ああ、今だってたぶんどっか狂ってるんじゃねえのかな。
体内エネルギーを炎という現象に変換して、現実に具現化できるなんて普通じゃねぇだろう。
純粋にエネルギーではあるが、これはまた本当に「炎」の質も持っていやがるからな。
燃えるんだよ、いろんなもんが。本当に。
わかってるだろ?

ガキのころはこれをコントロールすんのが大変だった。
外に向かって「怒り」を放てば、すぐに炎になっちまうんだな。
まぁ、本当に生まれたときからそうだったのかどうかなんて、そんなこたぁ知らねぇが。
言葉にすると確実だったな。
炎の類する単語がとくによくねぇ。すぐに「実物」になっちまうんだな。
それを「意識」で塗り替えるのは結構面倒だった。
何をしたかって? そんなこと、もう忘れちまったよ。











2008.10.4
憤怒の炎とか死ぬ気の炎って生体エネルギーだよね? 
…というところからちょっと考えたのでボスに語ってもらった。
最初のあれは多分照れてるんじゃないのかね。


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