Felice anno Nuovo !
吹き晒しの白いテントの下には大きな鍋が置かれていて、もうもうと白い煙を上げていた。

鍋の中は得体の知れない白いドロドロの液体で満たされていて、縁の方がぷつぷつと気泡を立てている。
甘みとアルコールの混じったような妙な匂いが、辺りに 漂う。
大きな羽釜(鍋のこと)の横にはジャージ姿の男が1人控えていて、鍋の中身の液体を、焦げ付かないようにか柄杓でぐるぐると撹拌している。
その側に寄ったジャッポーネの小さな子供らが「おじさん、甘酒ちょうだい!」寒さに負けぬ大きな声で呼ばわって、その白い液体を使い捨ての紙コップに注いで貰っていた。

赤眼の君子が何をするでもなくその様子を眺めていると、「う゛ぉぉい、甘酒配ってんじゃねーかぁ!」。
いつの間にか戻ってきていたスクアーロが、青年の隣で嬉しそうな声を上げた。
同じように戻ってきていた金髪の王子と黒いフードの赤子に向って「お前らも貰うかぁ?」うきうきと尋ねる。
子供二人がまた嬉しそうに「飲む!」口を揃えて応える。
それに対して銀眼がにっこりと頷いて「じゃあここで待ってろぉ!」と。
言い残して、煌々と白熱灯の 輝くテントの中へ足を踏み入れた。
「甘酒4つくれぇ」「ガキの分は金いらねーのかぁ?」などと大鍋の番人と遣り取りをする。
すぐに4つの紙コップを抱えて3人の所へ戻ってくると、青年は各々に一つずつ紙コップを配る。
まずは子供たちに渡しながら、「熱いぞぉ。よく冷ましてから 飲めよぉ」注意を促す。
そして最後に「ずっとそこに立ってて寒かっただろぉ。体温まるぜぇ」彼の君主に向って、白く凍えた息とともに温かい言葉を吐きだし た。

薄い紙一枚に隔てられた熱量を受け取った子供らが「ししっ、あったけー」「ほんと、カイロを買うお金が浮くね」などと口々に言い合って、手元に与えられた温もりを素直に喜ぶ。
ふー、ふーと息を吹きかけてから、端に口を付けてコップを少しだけ傾ける。
ベルフェゴールなどはすぐに「あっち!」と叫んで口許から紙器を離す。
横でそれを見ていたマーモンが「“急いてはことを仕損じる”君の引いたおみくじに書かれていた言葉だよベル」自分より余程背の高い同僚を、まるで彼の兄で もあるかのように窘める。
吊り目の美丈夫がすかさず「小吉だったからなぁ」と繋げてこの年下の幹部を揶揄った。
彼の口ぶりを見るに、自分はそれ以上の結果を引き当てたに相違ない。

片手に紙コップを抱えたまま、ザンザスはただじっとその遣り取りを聞いていた。
銀眼にそれがどう映ったものか、「…甘酒嫌いだったかぁ?」気遣わしげな表情を浮かべたスクアーロが、赫眼の主に水を向ける。
御不興を買ったか心配するというよりは、純粋な配慮。
相手が退屈な想いをしているのではないかと心配をする様子。
それを見たベルフェゴールが、元旦からこの様子じゃ今年一年のスク先輩の方向性も決まったね、そう言ってニヤニヤと笑う。
自分の引いたおみくじの結果を揶 揄われたことに対しての仕返しのつもりらしい。
言葉尻を拾ったマーモンが、でもそれは昨年も一昨年も同じだったよ、さもありなんといった風情で言葉の後を 引き継いだ。
子供らの邪気に溢れた会話に、「う゛ぉぉいてめぇらぁ!妙なこと言ってんじゃなーぞぉ!」銀色の鮫が噛みつく。
彼の白面はお社の境内の中央に据えられた篝火に照らされてオレンジ色に染められていたが、肌に混じる朱はそれでも誤魔化し切れない。
(そしてその篝火はよく見れば、ただドラム缶の中に薪が差してあるだけだった。
それでもその炎は、神の庭に相応しい赤々とした光を供していた)
気恥ずかしさを紛らわそうとしたものか、自分の手元の、まだ盛んに湯気の立つ紙コップに唇を付ける。

「ぅ゛ぁっちぃ!!」

案の定舌を火傷したらしく、悪戯なこどもが茶目っ気をみせるよう、ぺろりと舌を出した。
冷たい外気に晒そうとするのか、暫くはその表情を保っている。
良い歳の青年がするのは些か分別ないその面相を「ししっ、“他山の岩、もって玉を攻むべし (人の振り見て我が振り直せ、とほぼ同意)”…センパイの引いたおみくじに書いてあったことじゃん?」ベルフェゴールが笑った。

弟幹部のしたり顔に、舌を出したままのスクアーロが苦々しい表情を浮かべる。
今時分に相応しい最大の悪態と思ったのか、金髪の手合いに向って右手の人差指で右の下まぶたを引き下げあかんべをして見せるが、ずっとその表情でいるのだからどうにもキレが悪い。
やがてそっぽを向くと「ひんねんほうほうふいへ ねぇ…」眉をひそめて1人ごちた。
神のましますお社に向ってまであかんべをするあたり、彼もまだまだ大人げない。

年の初めから期待通りの貧乏くじを引いてくれたスクアーロが、どうにも面白いとか憎めないとか、そういう気持ちになって。

「…おいカス」

1人明後日の方を向いていたスクアーロの腕を、ザンザスは引いた。
本坪鈴の緒を引くよう、思い切りぐいと下に引いたので、「ぅ゛お!?」銀色の痩身は大きくよろめく。
半歩たたらをふんで、ボスン、君主の胸に受け止められる。
衝突した二人の手中にあった紙コップの甘酒だけが、衝撃の余波を受けて大きく波立った。

「なにすんだぁ!ボ…」
「るせぇ」

玉面が上向いて文句を言うのを、鶴の一声で黙らしめる。
反射的にきゅっと口を閉じようとする美しい鮫の唇だけは、指を添えて無理やり開かせた。
クッと口許歪ませると「火傷したんだろう」施しだ、消毒してやる。
急拵えの篝火などより余程紅く輝く瞳が楽しげに細められて―――
寒さに凍えて冬薔薇のような鮮やかな色を発するスクアーロの唇にザンザスのそれが重ねられ、ついでに舌を差し込んで鮫の口内をぺろりと舐めとった。





(あーあ、ほんと、今年一年の二人の方向性が知れるんじゃん…?)
(…でもそれは去年も一昨年もその前も同じだったよ、ベル)

2010.1.7
Gatto VariegatoのHOZさんからのDLフリー新年話です。クリスマス話は飾り損ねたので今度こそは…ww
HOZさんのファンなのです。経済観念が発達してるこどもたちが素晴らしい…苦労してるね…(笑)。


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